経営に役立つ環境マネジメントシステムの構築と運用

その2 システムの構築は何から始める?

(株)環境戦略研究所
代表取締役 井上 求
(衛生工学技術士、CEAR登録EMS主任審査員)


1. EMSの導入検討調査

・ EMS導入の検討・調査の内容が重要。これが、システムの有効性を決定付ける。
・ 導入の目的やどのようなシステムを構築するのかを明確にし、目的を持って構築する。

多くの書物が、EMSの構築(導入)を、経営層の関与や初期環境レビューから解説をしている。しかし、構築に先立って行われるフィジビリティ・スタディ(FS)などの導入検討や調査が導入後の成果を決定付ける重要な役割を持っていることを忘れてはならない。FSでは、導入の効果や、導入に要する工数や期間、費用などについて調査が行われるのが一般的だが、それでは不十分である。どのようなシステムを、どのような成果を期待して構築すべきかについて、見解を示すべきである。
多くの組織が、認証取得後早い時期にシステムをもてあますのは、このような明確な目的意識を持たないままシステムを導入したためと推察される。認証取得という当面の目標が達成されたとたん目的を見失い、宣伝効果以外に目立った成果も得られず手間だけが掛かる結果となるためである。
システム導入によって獲得すべき目標を明確にして、経営に寄与するシステムを構築することが重要である。

2. 重要な最高経営層の関与

・ 経営者は、システム導入への不退転の決意表明を通して、従業員の理解を得、協力と推進への熱意を集結する。このため、経営者の決意表明は非常に重要である。
・ 経営者は、導入に必要な人的・財的資源を用意しなければならない。

EMSの導入が決定すると、導入の意思は、経営者から決意表明(コミットメント)として示される。欧州で発展したトップダウンのシステムであるEMSにおいて、このステップは非常に重要である。しかし、ボトムアップ指向の強い日本では、トップダウンで示される経営者のコミットメントの重要さがあまり理解されておらず、形式的に行われがちである。
EMSは、企業の社会的義務として導入する手間と費用の掛かるものといった理解のされかたが一般的である。これを打破し、有益なシステムを導入するには、経営者の導入への不退転の決意表明を通じて、経営に貢献できるEMSについて従業員の理解を得ることが非常に重要である。また、経営者が人的・財的資源を配備し、推進組織に必要な権限と責任を付与することは、決意表明を担保するものとして理解され、導入への全員参加と推進に大きく寄与することになろう。
また、企業によっては、優秀な人材をEMS推進組織に配属しないケースもあるようだが、これは、経営者がEMSの導入を真剣に望んでいる訳ではないと従業員に判断されるとともに、導入によって得られる成果を自ら制限することになろう。

3. 初期環境レビュー

初期環境レビューでは、組織に関連するすべての環境側面を洗い出す。洗い出す時のポイントには、企業の存続を危うくする環境リスク、資源や資材の消費節減が経営改善につながるもの、資材の節減等が環境リスクを低減できるもの等が挙げられる。
下記に代表的な具体例を示す。
・ 過去 : 土壌(地下水)汚染、過去に発生した事故や苦情
・ 現在 : 法規制等、資源や資材の消費、排出物(廃棄物、排ガス、排水)の発生
・ 未来 : 同業他社等の環境事故の情報、ヒヤリハット事故
・ 直接 : 作業(工程)分析と資源消費や排出物発生の関係(定常と非定常)
・ 間接 : 委託業務等で環境上大きな影響のあるもの(法規制対象とその他)

初期環境レビューは、既存のEMSを持たない組織が、現時点における環境上の位置付けを明確にするため行うものである。既存のEMSを持っている組織でも、調査内容に抜けがないか再確認することが望ましい。これは、レビューのタイミングによっては、法規制や環境技術、環境に対する意識などが異なり、すべての環境側面を捉えていない可能性も否定できないからである。
一般に、初期環境レビューには、環境に関連する各種のデータ収集から、環境側面の洗い出し、評価、著しい環境側面の抽出までが含まれる。場合によっては、初期環境レビューとして、データ収集のみを行い、環境側面の洗い出し以降は、別のステップとして行っても何ら問題はない。このレビューの結果は、EMS導入時点のデータとして、ファイルに取りまとめておきたい。
初期環境レビューの中で、特に留意を要するもの一つを挙げると、土壌(地下水)汚染がある。土壌汚染は農用地を除いて法的に規制されていなかったため、過去には、有害な廃棄物や化学物質を敷地内に廃棄処分した企業もあったようである。適正処理ではないが、法に違反したとはいえないこのような行為や、比較的ずさんな化学物質の運用管理等の結果、土壌(地下水)汚染のリスクを抱えている企業は多い。現に、用地売却の過程で汚染が見つかり、百億円近い浄化費用を投入している企業も現れている。ちなみに、土壌(地下水)汚染の届出件数は、欧米の数万〜十万件レベルに対し、日本では一千件程度と極端に少ない。今後土壌(地下水)汚染の届出件数は増加するものと考えられ、企業が直面するリスクの中でも、発生の可能性が高く、かつ、企業の存続を危うくする恐れが高いものの一つといえる。
以下に、初期環境レビューの調査項目の内、留意を要するものの概要について述べる。
@サイト(工場)の立地環境
地図によって、工場周辺の環境条件を把握する。ポイントは、隣接する住宅や工場、農用地等の存在、自然環境の保全状態、河川や湖沼の存在等、組識が影響を与えうる周辺環境の現状や、サイト以外から発生している公害等環境影響発生源等の把握である。また、地下水脈についても、可能な限り把握しておきたい。
Aサイト内レイアウト
サイト内に存在する環境影響発生源やその処理施設等の配置を図面上で把握する。これらの施設には、生産ラインや排水処理施設(工程系、生活系)、廃棄物置場、焼却炉、コンプレッサー、クーリングタワー、排風機、排水路等が挙げられ、場合によっては能力等を明記する。
B設備フロー
生産ラインをフローチャートとしてまとめる。これと資源の消費や排出物の発生と関連付けることによって、工程の各ステップごとの環境影響の大きさが明らかになるため、改善を行う場合の重点が明確になる。
Cサイトの履歴
土地や建物取得前の事業内容とその運用状況の確認。特に、廃棄物や有害物質の用地内における不適正処分や不用意な排出による土壌や地下水の汚染に留意する。このような調査は、地下水脈データや当時の作業員、図面・資料等によって事業の状況を確認し、汚染の可能性の高い場所を特定した後、土壌や地下水を採取して分析する。
D製品
製品の使用や廃棄が環境にどのような影響が生じているか、業務(技術、開発、製造、購買等)と関連付けてまとめると、業務改善を行う場合のガイドとなる。
E排水処理
工程系と生活系の排水や雨水について処理フローや設備配置(排水管のルート、放流点等を含む)を示す。
F廃棄物処理施設
処理能力、焼却処理フロー、排ガス処理方法、処理廃棄物の種類と量、焼却灰等二次廃棄物等について取りまとめる。廃棄物処理業や設置届が必要な焼却施設または地域条例で上乗せがある場合には、より詳しいデータが必要である。
G危険物や化学物質等の保管
地下浸透や大気汚染、火災・爆発等発生の可能性の観点から、保管場所、構造、漏洩時の検知方法および保管物質の種類や量を把握する。
Hオゾン層破壊物質使用の有無
冷暖房、冷凍機、消火設備等について、ハロンをはじめとするオゾン層破壊物質使用の有無を把握する。
I環境影響発生源
典型七公害や資源の消費、危険物や化学物質等の消費・排出、廃棄物の排出と関連付けて、工程や機器等の環境影響の発生源をまとめる。
J原材料(化学物質を含む)の消費
製品やサービスのコストダウンを図る場合に、まず最初に取組むのが原材料の使用量の節減である。しかし、不思議なことに、EMSの改善項目にエネルギーの消費節減を挙げても、原材料の節減を挙げる組織は少ない。原材料の節減は、企業に利益を与えるとともに、環境保全にも寄与する重要な項目である。きちんと把握し、改善への足掛かりとしたい。
K法規制等
近年、環境に関連する分野は規制強化の傾向にあり、新たな規制や法改正が頻繁に行われている。このため、組識に適用される法規制、つまり、法規制の適用条件(物質名、施設の種類、地域)、許認可や届出・報告義務、必要な資格、規制基準、測定・記録義務等々の把握を確実にしたい。そのためには、法規制情報の入手先を明らかにして、今後の法規制の変化にも対応できるようにしておきたい。
L過去に発生した事故や苦情
また、企業防衛の面から、環境事故や訴訟の防止の観点は非常に重要である。特に、過去に発生した事故や苦情とその対応策を把握したい。その対応策が直接的で予防処置にまで及んでいない場合には、事故再発の可能性が高く注意を要する。
併せて、ヒヤリハット事故の把握が望まれる。EMSの構築過程で、ヒヤリハット事故が注目されることは少ないが、多くの大事故がこれを無視した結果発生していることを考えると、今一度ヒヤリハット事故に注目することはあながち無駄なことではあるまい。

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